羽田空港不時着 第12節


中里はサーベルをネフィリムの手に打ち込んだ。サーベルが一瞬だけ強い光を放つ。

ネフィリムは激痛で手を跳ね上げた。

いきなりのネフィリムの手の動きに、暴風が巻き起こる。

中里は暴風にあおられ、対異存在想定車両の列の間に落ちた。

中里
.中里.

「クッソーーー!!!。意外と強いな」

中里は即座に立ちあがった。

地面に叩き付けられたにもかかわらず、ピンピンとしている中里の反応を見て、その場にいた警備隊員は唖然としていた。

山本
.山本.

「撃て!」

通信機越しに山本の声がする。その言葉に従って、マリアが狙撃する。

弾丸がどこに着弾したかは、中里のいる場所からは分からない。

しかし、弾丸はいずれもネフィリムの頭部を貫通することなく、どこかで止まってしまっている。しかも、脳のサイズに対して弾丸が小さすぎるのか、ネフィリムの動きに変化はない。

そんなことは容易に想像できることだ。

中里
.中里.

「撃ち続けてくれ!」

中里は通信機に向かって吠え続けた。

山本
.山本.

「分かっている!こちらも撃てるようになり次第撃つ!」

山本の怒声が通信機越しに聞こえた。

中里
.中里.

「おい!警備隊!放水で押し出してくれ!」

中里は対異存在想定車両の運転手に向かって吠えた。

運転手は、後部座席のメンバーに連絡を取り、後部座席のメンバーは通信機で体調に連絡を取っているようだった。

中里
.中里.

「まったく、これじゃらちが明かないな」

中里は忌々しそうに言った。もとも戦略などない、場当たりで何とかなってきたのだが、ここにきて少し難しくなってきた。

山本
.山本.

「発射!」

しかも、ネフィリムは苛立ったように、足をどんどんと踏み鳴らしている。

中里
.中里.

「まずい・・・!」

中里が危険を直感した瞬間、ネフィリムが落ち始めた。

中里や警備隊、ネフィリムが居る場所は一階の前の道路だ。しかし、その道路は、柱で支えられた橋状の道路だ。

本当の地面はそこからもう一つ下のフロアにある。

ネフィリムは1階の道路を踏み抜いて、下に落ちてしまったのだ。

しかし、その振動は激しかった。ネフィリムが落ちた瞬間、中里は背後の警備隊の方を振り返った。

ネフィリムの着地の振動で、車両が一瞬浮き上がった。

中里
.中里.

「まずいぜマズいぜ・・・」

中里は焦ったように言った。

山本
.山本.

「落ち着け、中里」

山本はあえてゆっくりと言った。ここで中里がパニックになってしまったら、もはやだれもこの騒動を止められない。

山本
.山本.

「今回のネフィリムは特筆して大きい。だが、肉質が柔らかいことは明らかだ。お前の技術を以ってすれば、確実に葬ることができる!」

山本は、落ち着いた声で、ゆっくりと、しかし、はっきりと断言した。

中里
.中里.

「そ、それもそうだよな・・・」

中里はネフィリムを見つめて言った。

ネフィリムは、じたばたしているばかりで、起き上がろうともしない。

まるで、穴にはまって泣きわめく子供の様だった。

中里
.中里.

「手は下りてきたが、あそこからサーベルを抜くのはヤバそうだな・・・」

しかし、取り戻さなければ倒すこともできない。

中里は決意したように、ネフィリムの方へ突っ込んで行った。

その姿を、ウルヴェルヌと榎倉は、ターミナルビルの中からジッと見つめていた。

中里
.中里.

「出来るサポートはやってみてくれ!」

山本
.山本.

「分かった」

マリア
.マリア.

「了解」

ネフィリムは陥没した道路に埋もれている。全身の身動きが効かなくなっている中、動かすことのできる手足をじたばたさせている。

山本
.山本.

「まるでひっくり返された亀だな」

山本は警察署の屋上からネフィリムを見つめて言った。

マリア
.マリア.

「それって、動物虐待なんじゃないですか?」

マリアはスコープを覗き込んだまま、山本に言った。

山本
.山本.

「・・・ジェネレーションギャップってやつだ」

山本は適当なことを言ってごまかした。しかし、内心では、他愛のないことを言えるぐらいにマリアの精神が落ち着いてきていることにホッとしていた。

マリアはスコープを覗き込んでネフィリムと対峙していると、今までの恐怖を感じなくなっていた。

しかし、一方で頭の中で声が鳴り響いているような感覚にも陥っていた。

ネフィリムの叫び声の意味が、なんとなく分かるのだ。

痛い、とか、嫌だとか、そう言う原始的な感情だけではない。

父親や母親に助けを求めている。しかも、その父親や母親の面影が、マリアの脳内にうっすらと思い浮かぶのだ。

なぜかは分からない。声を媒介として、ネフィリムの心の中に思い描く何かが、マリアの中に送り込まれているかのようだった。

そして、今回、対峙しているネフィリムの思い浮かべる父親の面影。マリアはその人物にどこかであったような気がしていた。

面影でしかないあやふやな父親のイメージから、それをお誰か思い出すことは至難の業だった。

山本
.山本.

「おい、どうかしたか」

山本の声で、マリアは現実の世界に引き戻された。

マリア
.マリア.

「す、すいません。少し考え込んでいしまっていました」

マリアはスコープを覗いたまま、山本の方をチラッとも見ずに答えた。

今は戦闘に集中しなければならない。でなければ、中里の身を危険にさらすことになる。

と言っても、こんな狙撃であの巨人を倒せるのか、マリアは不安になっていた。

中里
.中里.

「今は少しずつ削っていくしかないさ」

中里は通信機越しに、マリアの不安を見抜いたかのように言った。

マリア
.マリア.

「さすが、すぐ気付いてくれるね」

マリアは弱弱しく微笑みながら言った。

中里としても、実際のところ、削りきれるかどうか不安はあった。

そもそも、サーベルは未だネフィリムの手に突き刺さったままだ。あれが抜けてどこかに飛んで行ってしまったら中里には有効手段がなくなる。

中里はぐだぐだ考えるのを止めて突っ込むことにした。

ネフィリムの体はブニブニしていて走りづらそうだ。しかし、中里はネフィリムの体の上を走り出した。

苦も無くバランスを保ちながら、振り回される腕に向かって近づいていく。

中里
.中里.

「マリア、とにかく撃てるだけ撃ってくれ!」

今回持参した狙撃銃の弾丸は15発。通常であれば有効打を打ち込むために数発は必ず残しておく。

しかし、このサイズでは、狙撃銃の弾丸ではもはやとどめを刺しきれないことは明白だ。

とにかく打ち込めるだけ打ち込んで、ダメージを蓄積させるしかない。

出血のスリップダメージで弱ってくれることだけしか、期待できない。

中里は、何とか腕にしがみついた。

そのまま、太くて不快な弾力を持つ腕をよじ登っていく。

その間、腕は振り回され、中里の体も振り回される。

しかし、ネフィリムの腕にがっしりと掴まり、振り回されつつも、安定して腕を登っていった。

腕の外側は、あたりに叩き付けられているが、内側は往復するだけで安全だ。

中里
.中里.

「このキモい弾力のおかげだな」

中里はそういいながら少しずつネフィリムの腕をよじ登った。

そして、手まで登り切ることに成功した。

ネフィリムの手は握りしめられている。

中里は、足をネフィリムの手首に巻き付ける。

少しずつネフィリムの指の肉を掻きわけて手を伸ばす。

そして、ネフィリムの手に突き刺さっていたサーベルに触れる。

中里
.中里.

「うぇ、こげくさ・・・」

中里はぼやいた。サーベルの持つ力が、ネフィリムの肉を焼き続けていたせいで、ネフィリムの手は部分的に焦げ付き始めていた。

中里は足を手首から離す。そして、即座にサーベルを引き抜く。

振り回されていたネフィリム腕の勢いに乗せられて、中里の体が宙に放り出される。

中里の体が放物線を描いて上空に投げ出される。

山本
.山本.

「中里!」

かし、中里は落ち着いていた。空中の最高到達点に達するまでに体勢を立て直す。

それから、自分の体が落下し始めると、空中を蹴って少しずつ減速しながら、降りていった。

中里
.中里.

「まったく、とんだことになってしまったな・・・」

中里は全身に山本は焦ったように声を上げた。

空中を蹴りながら、ゆっくりと降りていく間、中里はずっとネフィリムの動きを見つめていた。

ネフィリムの動きは子供の様だと言われる。

まさに、その通りだろう。

足足元が抜けて、立ち上がることも出来ず、ジタバタしているその様子は、まさに立つこともままならぬ子供の様だった。

中里は膝裏を斬られ、転んだ痛みで泣きわめくその子供をこれから殺すのだ。