. 空想確定神域

羽田空港不時着 第13節


ウルヴェルヌはネフィリムと中里の戦いを羽田空港第二ターミナルの南側から見つめていた。

榎倉はチラチラとウルヴェルヌの事を見ていた。今のウルヴェルヌは、いらだちの兆候が見られる。ネフィリムの討伐に手間取っている現場の対応にいら立ちを隠しきれなくなっている。

榎倉
.榎倉.

「なぁ・・・」

榎倉はそんなウルヴェルヌを落ち着かせようと、口を開こうとした。

しかし、ウルヴェルヌの方が心を固めるのが早かった。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「見ていられないな」

ウルヴェルヌは巨体のネフィリムの対応に手間取っている中里を見て、苛立ったように言った。

榎倉の顔が青くなった。

榎倉
.榎倉.

「おいおいおい、まさか・・・」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「ああ、そうだ。極東官庁!」

ウルヴェルヌは迷いもなく荒々しい声をあげて通信機で極東官庁に連絡をとった。

オペレーター
.オペレーター.

「は、はい!」

極東官庁のオペレーターはウルヴェルヌの語気に驚きながらも、返事をした。榎倉は顔に手を当ててうめいた。もうこうなってしまっては諦めるしかないだろう。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「首相に連絡。私がネフィリム討伐に出撃すると伝えてくれ」

オペレーター
.オペレーター.

「で、ですが・・・」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「分かっている。だが、ことは一刻を争う。これ以上悪魔をのさばらせぬためにも、私が出たいのだ!」

ウルヴェルヌは淡々と、しかし、語気を強めて言った。

オペレーター
.オペレーター.

「少々お待ちください」

オペレーターは上層部との相談を開始したようだった。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「行くぞ。俺たちは、日高との調整だ」

榎倉
.榎倉.

「真面目なこった」

榎倉は肩をすくめて言いつつも、歩き出した。中里のネフィリム討伐はいつまでも終わらない。このまま空港が更地になるのを待っている気にはなれなかった。

榎倉
.榎倉.

「いいのか?お前の出撃は最終的に首相判断になるんだろう?」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「そちらは極東官庁に任せた。今は現場同士での連携を図りたい。首相との交渉は必要に応じて、極東官庁の要請に従う形で行う」

ウルヴェルヌはそう言ってスタスタと歩き始めた。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「それに、現場には理解しておいてもらいたい」

榎倉
.榎倉.

「上役の命令で嫌々やらされるのじゃなくってわけか。ますます真面目なこった」

榎倉はさらに肩をすくめつつも、内心ではウルヴェルヌの考えを認めていた。

力だけでねじ伏せるのではなく、現場にも理解を得るやり方は、好きだった。

日高は戦線から一番遠い場所、第二ターミナルの南側に居たので、すぐに発見できた。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「お忙しい所、失礼いたします」

ウルヴェルヌは日高に後ろから声をかけた。

日高は鬱陶しそうに振り返って、ウルヴェルヌの顔を認識して、顔色を変えた。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「私に、ネフィリム討伐に協力させていただけませんか?」

日高の顔が青ざめた上、混乱で焦点が定まらなくなった。

榎倉は日高に同情した。こんな無茶ぶりを唐突にされれば、混乱の一つもする。

ウルヴェルヌもさすがにこれはまずかったと反省した。少し話を唐突にもって行き過ぎて、相手は警戒してしまっている。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「唐突に申し訳ありませんでした。現在の対応状況を鑑みて、助力させていただければと思いまして」

ウルヴェルヌは言葉をゆっくりと発した。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「もちろん、ネフィリムの権限が、日本にあることはわかっております」

ウルヴェルヌがゆっくりと状況を説明してる間にも、日高は何を言ったらいいのかを必死で考えているようだった。

しかし、日高の口から出てきた言葉は無難な言葉であった。

日高
.日高.

「その件については、政治的な判断も絡みますので・・・」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「その点については、現在、極東官庁と首相並びに閣僚の方々が交渉しております。ご自身のご意見として、どのようにお考えなのですか」

日高は顔を逸らした。

ウルヴェルヌは眉をひそめた。これ以上の交渉は無駄だろうか。直球で質問しすぎてしまっただろうか。自分の判断を謝ったかと思った。

しかし、日高は少しため息をついた。

日高
.日高.

「一刻も早く排除されれば、とは思っています。ですが、それは、我々ではなく、中里浩の手にゆだねられている問題です。それは、この警備隊では判断しかねる問題になっているのです」

ウルヴェルヌはうなずきながら話を聞いていた。どうやら、『政治的な判断』というのは、案外根深い問題のようだ。

ウルヴェルヌが出撃よりも、中里をめぐる関係性について、考えを巡らせていると、オペレーターから声をかけられた。

オペレーター
.オペレーター.

「こちら、極東官庁。ウルヴェルヌ様、聞こえますか?」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「失礼、少々よろしいでしょうか」

ウルヴェルヌは日高に頭を下げると、口元と耳を手で覆って通信機の会話に集中した。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「ああ、聞こえる」

極東官庁のオペレーターが

オペレーター
.オペレーター.

「首相判断で出撃許可が出ました。この戦闘に限り、特例を認めるとのことです。ネフィリムとの交戦を許可します。ですが、中里浩との戦闘行為は一切を禁じます。これに対する特例は一切適用されず、天界府則においてあなた様を罰する可能性があります。ご注意ください」

ウルヴェルヌは何も言わなかったが、そんなことは当然のこととして承知していた。むしろ、何故中里と刃を交えることに対してここまで念をおされるのか、ウルヴェルヌには理解できなかった。

オペレーター
.オペレーター.

「また、承認書類をお送りいたします。確認の後、ウルヴェルヌ様がご自身で確認を行い、確認ボタンをタッチしてください。それによって、正式に出撃が可能となります」

ウルヴェルヌはうなずいた。アームフォンから書面を表示する。即座に目を通すと、日高の方に向き直る。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「ありがとうございます。おかげさまで正式な許可が下りました」

日高
.日高.

「ええ、私は何もしておりませんが、よかったです」

日高はうなずいた。その表情は、少しほっとしているようだった。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「あなたの期待に、応えてみせます」

ウルヴェルヌは敬礼をしてから、歩き出した。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「ついに、極東の悪魔と刃を交えるか」

ウルヴェルヌはどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、拳を固めた。

榎倉
.榎倉.

「嬉しそうだな」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「ああ」

ウルヴェルヌはうなずいた。

気分が高揚しているのか、戦闘シミュレーションに集中しているからなのか、会話の方はおざなりだ。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「お前は待機だ。いいな?」

榎倉
.榎倉.

「承知している」

榎倉は重々しくうなずいた。