羽田空港不時着 第3節


暴走する機械兵はウルヴェルヌによって速やかに撃破された。

ウルヴェルヌは二度も爆風に煽られ、少しだけふらついていた。

そこに、榎倉が隣の道路から跳んで戻ってきた。

榎倉
.榎倉.

「大丈夫か?」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「ああ、問題ない」

ウルヴェルヌはそう言って榎倉に手を伸ばした。

榎倉
.榎倉.

「あれだけのスピードに組み付けるなんて、やはり最強の天使は違うな」

榎倉はニヤニヤしながら、ボックスをウルヴェルヌに渡した。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「軽口をたたいている場合か」

ウルヴェルヌは後ろを振り返った。

機械兵士の爆発のせいで落橋する可能性を否定できなかったからだ。

榎倉
.榎倉.

「それは大丈夫だろ」

連絡誘導路には大きな穴が開いていたが、二柱の居る場所まで崩壊する危険性は少なそうだった。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「少し待ってくれ。準備を整える」

ウルヴェルヌは、そう言ってボックスを下ろした。

パイルバンカーの装弾数は6発。今は空の弾倉がセットされている状態だ。

ひとまず、弾倉の交換だけはすることにした。空のパイルバンカーなど抱えていても無駄だからだ。

ウルヴェルヌは、セットされていた空の弾倉を外した。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「極東官庁。残りの2機は?」

ウルヴェルヌは、弾倉の交換の手を止めずに、オペレーターに尋ねた。

弾倉の入れ替えをしたものの、出来ればパイルバンカーは使いたくはない。

もし、どうしてもこの状況が続くようならば、弾倉をポケットに入れておく必要があるだろう。

オペレーター
.オペレーター.

「先ほどお伝えしました1機のうち、残り2機はいずれも先ほどの1機が暴走した段階で、起動不能状態になっているようです」

榎倉
.榎倉.

「警備隊様も一応は頑張ったってことだな」

榎倉はニヤニヤしながら言った。

オペレーター
.オペレーター.

「羽田空港中心部、第一ターミナルと第二ターミナルの中間部の戦闘が続いております。こちら、敵勢力は、暴徒と化した人類のみです」

榎倉
.榎倉.

「ひえー、物騒な国だなぁ」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「あまりふざけたことを言うな」

ウルヴェルヌは榎倉を咎めるように言った。

オペレーター
.オペレーター.

「日本における大規模テロ行為は、日本人の好む言い回しを用いるならば『戦後史上最悪』の規模です」

オペレーターは冗談のつもりで言っているのではない。それを事実だと思って淡々と伝えている。

榎倉
.榎倉.

「昔は平和だったもんなぁ」

オペレーター
.オペレーター.

「すなわち、1945年以来、このような大規模テロは発生してこなかったということです」

榎倉は、オペレーターの言葉が続くと思っておらず、つい口をはさんでしまった。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「昔のことをよく知っているようだな」

ウルヴェルヌはチクリと榎倉に言った。

榎倉
.榎倉.

「俺は一応 元日本人だ。・・・よくは覚えていないが」

榎倉の言い方には、突っ込んでほしそうな、含みがあった。

榎倉
.榎倉.

「だいたい、俺の名前を視りゃわかるだろ?日本人だってくらい」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「漢字を使うから、というのならチャイニーズの方が多いだろ」

ウルヴェルヌは、榎倉の方をちらりとも視ずに淡々と言った。

それから、ボックスの中の弾倉に手を付けたまま、ジッと考え込み始めた。

羽田空港周辺は封鎖されている。それなら、現状、大型兵器が確認されていないならば、追加で投入される可能性は低い。

ならば、予備の弾倉を大量に用意しておく必要はない。

ただ、想定外の事態はいつでも発生する。ウルヴェルヌは結局、予備の弾倉を一つだけポケットに入れておくことにした。

時間がかかった割に、ありきたりな結論に到達してしまった自分の能力が少しだけ情けなかった。

榎倉
.榎倉.

「しかし、まぁ、被害総額が気になるな。勿体ない気がするぜ」

ウルヴェルヌが考え込んでいる間、榎倉は手持無沙汰にしていた。

オペレーター
.オペレーター.

「今回の警備は日本国主体、自衛隊と警視庁・警察庁の合同警備です。なので、このテロにおける被害の請求は天界府には来ません」

通信機越しの淡々とした説明に榎倉は顔をしかめた。

榎倉
.榎倉.

「いやー・・・そう言うことじゃなくてさぁ。まぁいいけど」

ウルヴェルヌは、そのころになって考えをまとめ、弾倉をポケットに入れてボックスの蓋を閉めた。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「事件はまだ終わっていない。気を抜くな」

榎倉
.榎倉.

「分かってるさ。俺の尻がベッドの上にないからまだまだ戦いが続いてるって教えてくれてるからな」

ウルヴェルヌは榎倉に厳しい視線を向けた。

榎倉
.榎倉.

「わ、悪かったよ。冗談、冗談」

榎倉は、ハハハハと弱弱しく笑った。

ウルヴェルヌは、もう一回、榎倉をにらみつけてから、ボックスを背負った。

それから、ウルヴェルヌは、機械兵士が飛び出してきた大きな建物の方を向いた。

オペレーター
.オペレーター.

「今、ウルヴェルヌ様がご覧になっている建物が、警備本部です」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「そうか。先ほど、機械兵士が飛び出してきたのもあそこだったな。状況を確認する」

ウルヴェルヌはそう言って走り出した。

榎倉も慌てたように走り始めた。

榎倉
.榎倉.

「おいおい、俺たちはここを脱出してしまえばいいんじゃないのか?」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「お前は聞いていなかったかもしれないが、上級天使より、鎮圧への協力が命令されている。ならば、俺はそれを実行するだけだ」

榎倉
.榎倉.

「さっさと脱出しちまった方が、鎮圧に貢献する気もするんだがなぁ」

榎倉は、口をとがらせて抗議した。しかし、ウルヴェルヌは完全に聞く耳を持っていない。その証拠に、ウルヴェルヌは何も言わず勢いよく走り続けている。

榎倉
.榎倉.

「仕事モードだこりゃ・・・」

榎倉もそれを追いかけるように走る。

榎倉の足が動くたびに、パワードスーツのモーターの動く軽い音がした。このパワードスーツがなければ、榎倉は満足に走ることもできない。

それほどにまで、榎倉の体は朽ちているのだ。

榎倉
.榎倉.

「俺は長時間戦闘にあまり向いていないからな。そこも考慮してやってくれよな」

パワードスーツの充電バッテリーのこともある。あまりに長時間、酷使すれば、本当に役立たずになる。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「少しは静かに走れないのか」

ウルヴェルヌは、ぺらぺらとしゃべる榎倉に苦言を呈した。

榎倉
.榎倉.

「俺は自分のモーターの音を聞くのが嫌なの。だから喋って気を紛らわせようとしてるの」

オペレーターが羽田空港警備本部に向かって走っていくウルヴェルヌに提案をした。

オペレーター
.オペレーター.

「ウルヴェルヌ様、細かい手続き等の交渉については、こちらで引き受けましょうか?」

榎倉が喋っている途中に割り込んでいるが、オペレーターの口調に罪悪感は一切ない。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「助かる。今、頼みたいことはないが、交渉の材料として使わせていただく」

ウルヴェルヌにとっては榎倉の無駄話に付き合わされる方がこちらの方がずっとよかった。

ウルヴェルヌは警備本部の設置された倉庫の前で止まった。

榎倉
.榎倉.

「やっぱ少し壊れてんな」

機械兵士が倉庫の壁をぶち破って出てきたせいで、大きく穴が開いている。とはいえ、もともと柱と板だけの簡素な作りだったため、大きいといえるほどの被害は出ていなかった。

ウルヴェルヌは、倉庫に入ってすぐのところに、機動隊員が盾を持って入り口を固めていることに気付いた。しかし、特に気にすることなく、ゆっくりと歩き出した。

警備隊員
.警備隊員.

「何者だ!!」

倉庫の中に入ろうとすると、警備隊員が声をかけてきた。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「私は、天界府戦闘機関大天使・ウルヴェルヌです」

ウルヴェルヌはアームフォンから自分のIDと証明を表示した。アームフォンから、空間に、光で大きくウルヴェルヌのID証明が展開される。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「本日、来日した天使、ウルヴェルヌです。自力で航空機より脱出、警備本部にまで伺いました」

ウルヴェルヌは大きな声で言った。

すると、機動隊員による盾の壁の後ろから、一人の女性が歩み寄ってきた。

警備隊員 - 女性
.警備隊員 - 女性.

「・・・確かに、ウルヴェルヌ様と、警備のエノクラモデル機械天使とお見受けいたします」

女性は、他の隊員と違う装備を身に着けており、この警備部隊の指揮官であることが察せられた。

他の警備隊員達は女性指揮官のために道を開けた。

榎倉
.榎倉.

「それじゃ、俺はここで待ってるから。その装備品も置いていきなよ」

榎倉は小声でウルヴェルヌに言った。ウルヴェルヌはうなずくと、装備品の入ったボックスを下ろした。

榎倉
.榎倉.

「それじゃいってらっしゃ~い」

榎倉はウルヴェルヌに小声で言った。

榎倉にとっては、自分が大したことのない量産兵士エノクラモデルの一人であると思われていた方が好都合だった。

だから、人前では喋らず、ただ突っ立っているだけの量産兵士のふりをしていた。

ウルヴェルヌはやってきた指揮官の前に歩み寄った。

指揮官は、アームフォンを操作した。ウルヴェルヌと同じように、身分証明が空中に表示された。そこには、姫路という名前が記載されていた。

姫路
.姫路.

「私が、ウルヴェルヌ様の来日に際して、羽田空港、自衛隊・警視庁合同警備隊隊長、姫路です」

姫路はそれから、敬礼をした。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「お初にお目にかかります。戦闘機関所属、天使、ウルヴェルヌでございます」

ウルヴェルヌはIDを表示させたまま、頭を下げた。

ウルヴェルヌが頭を上げぬうちに、姫路は勢いよく頭を下げた。

姫路
.姫路.

「まず、ウルヴェルヌ様の搭乗されていた航空機の撃墜、および、この状況に関して、大変申し訳ございません。ひとえに、我々の警備体制の不備につき、このような大事に至ったとかんが・・・」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「姫路さん、今は、そんなことをしている場合ではないかと」

ウルヴェルヌは姫路に、顔を上げるように促した。

姫路
.姫路.

「し、しかし・・・」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「今はこの騒動を収束させることが先決です。我々もご協力いたします」

姫路は驚いた。ただでさえ混乱した状況の中で、更に突拍子もないことを言われてしまえば、混乱するのも無理もないだろう。

ウルヴェルヌは頭でわかっていても、うろたえている姫路を見ているとつい苛立ってしまった。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「私にも交戦許可をいただければと存じます」

うろたえて言葉が続かない姫路に業を煮やして、ウルヴェルヌは自ら先に提案をつげた。

相手がどう出るのか、ウルヴェルヌにはまだよくわかっていない。だが、これが日本人のサンプル第一号だ。

ウルヴェルヌは日本人対応を今後どうするかを決める重要な判断材料として、姫路のことを観察していた。