羽田空港不時着 第8節


ウルヴェルヌは、羽田空港第二ターミナル1Fにて、最前線の警備部隊責任者との話をつけた。

外では、警備隊の放送と放水と、それに答えるかのような襲撃者たちによる銃撃の音が響いていた。時折、閃光グレネードが光を放ち、ターミナル内部まで照らし出されることがあった。

しかし、警備隊員は、決して動こうとはしていなかった。

警備隊の任務は、襲撃犯たちの逮捕ではなく、羽田空港を防衛すること。そのように認識し、そのように指揮され、そのように行動しているのだろう。

ウルヴェルヌには、この消極的警備体制が気に入らなかった。

だから、自ら打って出ることにした。警備網の抜け穴となっているターミナルへの穴を叩きに行く。

そのために、今、歩いている。榎倉もその後をついていく。二柱を先導するのは、この地区の担当者、日高だ。

日高は歩きながら、胸元に付けていた無線通信機を取り出して口元にあてた。

日高
.日高.

「天城副隊長に通達。第5小隊を連れ、第3待機車両に集合。目的は天使ウルヴェルヌ様がポイント16までお連れすること、および、援護だ」

天城
.天城.

「了解。副隊長天城、第5小隊と共に第3待機車両に集合」

通信機からは雑音交じりの答えが返ってきた。それをきいてから、日高は通信機を戻した。

日高
.日高.

「申し訳ありませんでした」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「いえ、ご用立ていただきありがとうございます」

ウルヴェルヌは詫びよりも機敏な行動を求めていた。

日高は歩きながら鉄壁の警備網にターミナルと共に守られた背後に並べられた車両を指さした。

日高
.日高.

「機動隊対異存在想定車両でございます」

その車両はいかにも機動隊が使いそうな青っぽい塗料の塗られた武骨な車両だった。

日高
.日高.

「後方に、放水用タンクがついているほか、投げ飛ばされた場合の対ショック装備も搭載されております」

今言われたことは、車両の外見から、なんとなく理解できた。特有の匂いと音や振動から、モーターエンジンではなくガソリンエンジンを搭載していることも理解できた。

オペレーター
.オペレーター.

「異存在とは、この地域における、悪魔のことです。この場合、対悪魔車両ということです」

極東官庁のオペレーターが天界府としての見解を通信で伝えた。

この車両を持ち出してきたということは、悪魔が関与していることも想定しているのだろう。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「悪魔は、出ましたか」

日高
.日高.

「今のところ、報告は受けておりません」

日高は、即答した。判断を要する質問ではなかったため、すぐに回答できたのだろう。

ウルヴェルヌは、アームフォンのメモアプリに、即座にいくつかの情報を記入した。

目的の車両まではすぐに到着した。

日高は、開いている扉に二柱を招いた。

日高
.日高.

「では、お乗りください」

二柱は、案内されるがままに後部座席に乗り込んだ。ウルヴェルヌは、相変わらず、アームフォンへの情報入力を続けている。榎倉は、黙ってウルヴェルヌの後ろを突いていく。

車内にはすでに、同伴の警備隊員がすでに乗り込んでいた。

天城
.天城.

「天城です。よろしくお願いいたします。」

天城は敬礼して、ウルヴェルヌに名乗った。ウルヴェルヌは、アームフォンからチラッと目を上げて、軽く会釈をしたが、すぐにアームフォンへのメモに戻った。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「すぐに出発いただきたい。ポイント16付近からは、既にターミナル内に侵入が発生している。被害の拡大を防ぐためにも、一刻も早い対応が求められているはずです」

ウルヴェルヌの言葉を聞いて、天城はうなずいた。

天城
.天城.

「発車しろ」

天城は、運転手に向けて指示を下した。その直前に、日高は、自身の責任かの各隊に向けて、通信を発した。

天城
.天城.

「各隊に通達。ウルヴェルヌ様がポイント16に向け、出撃。第3車両付近の警備隊員は、車両の通過経路を確保。その間、敵の侵入に応じて、スタングレネードの積極的使用を認める。全力で死守せよ」

指示を受けた警備員たちは、一斉に車の道を開けた。

ウルヴェルヌ達が乗った車は、一気に人垣の門を通り抜けた。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「では、作戦ですが、手短にお伝えします」

ウルヴェルヌは、アームフォンに入力を続けていたメモを空中に表示した。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「車両を盾に銃撃を防ぐ。スタングレネードを投げた後、天使2柱が突撃いたします。あなた方には、放水による支援と、拘束をお願いいたします」

ウルヴェルヌは単刀直入に、かつ、丁寧な口調で説明をした。今発言した趣旨と同じ内容の文面が空中のメモに記載されている。

天城
.天城.

「ですが、この車両での放水能力はごく一時的なものですが・・・」

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「構いません。適宜、我々が攻撃レンジから外れた場合、この車両に危険が迫った場合に使用をお願いいたします」

ウルヴェルヌはうなずいた。むしろ、威力がどの程度の物なのかもよくわからない。そんな物を使われ続けていたら、迷惑で仕方がない。

むしろ、単発高威力で、相手の意表を突けさえすればいい。

ウルヴェルヌは、一同がメモを確認した後、アームフォンの表示を閉じた。それから、素早く自分の装備品のボックスを車内で下した。

現場にはすぐに到着した。

天城
.天城.

「車両では、ここまでです」

天城が運転席の前を覗き込んでウルヴェルヌに伝えた。

ターミナルへの柵が破壊された場所では、何台ものトラックや中型車両が乗り捨ててあった。確かに、これでは、この車両ではうまく進むことができない。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「ありがとうございます。我々はここで。皆さまは、状況が安定次第、拘束、逮捕をお願いいたします」

ウルヴェルヌは扉を開けると、車から降りた。榎倉も、無言でそれに続く。

天城
.天城.

「投降をお願いいたします。これ以上の抵抗を止め、武器を捨ててください。それ以上の危害を加えるつもりはありません」

天城が、車両設備のスピーカーを使って声を上げた。

すると、乱雑に止められた車の間に潜んでいた襲撃者たちが、銃撃を加えてきた。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「これは都合がいいな」

榎倉とウルヴェルヌは、車両の扉を盾にして前方の状況を確認した。

なにしろ、雑に止められた車の間は決して広くなく、銃を持った相手に囲まれるということも起こりにくい。

榎倉
.榎倉.

「適当でもなんとかなりそうだな」

ウルヴェルヌは腰に下げた閃光手榴弾を取り出した。榎倉はうなずいた。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「閃光が止まったら突っ込む。準備しておけ」

榎倉
.榎倉.

「了解」

返答を聞いた瞬間、ウルヴェルヌがスタングレネードを投げた。

閃光が走る。

ウルヴェルヌと榎倉の二柱が即座に動き出した。

二人は、雑に止められた車を飛び越えた。

着地したウルヴェルヌのすぐ傍には、銃を手にした女性が居た。

ウルヴェルヌは女の腕を蹴り飛ばした。女の手から銃が弾き飛ばされる。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「投降しろ。私は天界府戦闘機関大天使ウルヴェルヌだ。」

榎倉の着地点近くにいた襲撃者は大柄で鉄の棒を手にしていた。

榎倉は、その鉄棒が振りかざされる前に鉄棒を握る。

そして、そのまま鉄棒を男の手から抜いてしまった。

大柄な男
.大柄な男.

「ひっ!」

襲撃者は、恐怖を顔に浮かべた。なにしろ、怪力で武器をもぎ取られたのだ。恐怖の一つもするだろう。

天城
.天城.

「投降をお願いいたします。これ以上の抵抗を止め、武器を捨ててください。それ以上の危害を加えるつもりはありません」

車両のスピーカーから改めて天城の声が聞こえる。

ウルヴェルヌは、そんな言葉も耳に入っていないかのように、車の谷間を素早く移動した。

襲撃者の持っている銃はしょせん軟弱な銃ではあった。しかし、盾もなくヘルメットもつけず銃を持った敵に突っ込んで行くのは、はたから見れば無謀だろう。

しかしウルヴェルヌは銃弾が無いかのように、空間を疾駆し、武器を奪っていく。

武装解除してしまえば、生身の人間など全く恐ろしくない。

仮に背後から殴りかかられても、軽くいなす。

一方の榎倉も戦いの手を緩めなかった。

榎倉は、装甲を利用して銃弾のダメージを防ぎながら、のらりくらりと敵と間合いを詰める。

そして、思い切り拳を放つも、敵の目の前で寸止めした。

装甲で強化された榎倉の拳が直撃すれば、人間の頭は骨ごとミンチになる。

ミンチ死をさせないため、手加減をしても、榎倉の拳を目の当たりにすると、襲撃者たちは次々と恐怖に襲われた。

榎倉
.榎倉.

「やっぱり素人相手ばっかりだなぁ」

榎倉は、ぼやくように言った。

榎倉
.榎倉.

「殺さない様にて加減はしてるけど、何人かトラウマを負わせてる気がする」

榎倉は、この乱闘の中でもなお、お気楽トークを垂れ流す余裕があった。

ウルヴェルヌ
.ウルヴェルヌ.

「投降しろ。これ以上の抵抗は無駄だ。両手を後頭部に当て、跪けば、戦闘の意志はないとみなす!」

ウルヴェルヌは大声で言った。しかし、声はあくまで落ち着いている。この騒乱状態で怒鳴り散らしても、かえって相手を興奮させ理性のない乱闘に突き進ませるだけだ。そうなれば、こちらは大丈夫でも、敵が同士討ちをしてしまう。

榎倉
.榎倉.

「敵であっても命を大事にしなきゃいけないのが、正義の味方の辛いところだな」